アンシャンテの手紙

アンシャンテの手紙

ノンフィクションドラマ

あの少女漫画のように
ハッピーエンドが大前提の分かりきった世界なら
こんなに泣いたりしないよ
どの頁にも描かれなかった誰も知らない長い夜
どうして生きているの?
溜め息さえ吐けずに生きている

始まりの最終章
君が決めたこと
今が意味を成さないようで目を背けていた

だけど現実はいつだって現実的で
どんなに逆らっても進んでしまうの
君と見ている同じ景色も全部もう過去になってしまうよ

あのヒーロー映画なんて
ありもしない空想だった
助けを求めても救ってくれないじゃないか
どのシーンにも描かれなかった誰も知らない長い夜
どうして生きているの?
その答えを探して生きている

あの青い脳に抱いた夢は確かにノンフィクション
何一つ妄想じゃない
今全てが始まった
夜が来る度に考えたんだ
僕のレーゾンデートルを
答えは簡単だった
「生きていく為に今…」

あの推理小説だって
答えはどこにも書いていないの
だからきっと最期まで生き抜いてしまうと思うんだ
どの詞章にも描かれなかった誰も知らない長い夜
答えは簡単だった
「生きていく為に今生きている」
最終章の後は想像するしかないけれど
確かに物語は続いている

回顧展の林檎

始まりはきっと分からない
気付いた時には落ちている
メランコリーになってさよならをした
この額の中から

作者不明の林檎の絵
あの子は可愛いと言う あなたは要らないと言う
わたしは泣き出しそうになった
それぞれの感覚で 否定して肯定して
嫌われて愛されて 価値を定められて

唯々電車は揺れる
唯々雲は流れていく
唯々当然のように置いていかれたんだ

始まりはきっと分からない
気付いた時には落ちている
メランコリーになってさよならをした
この額の中から

飾られた林檎の絵
美術館の白い壁 ガラス越しに息をした
歓喜でも溜め息でもない
高値がつくのか 丸めて捨てられるのか

「その物差しを捨てて」

誰かが産まれたその瞬間
誰かが死んだこの世界で
何もかもきっと違っているから
そのままでいいよ

今日もまた朝が来てあのビルの隙間は
頭痛がする程に明るんだ
僕たちの為に

シロツメクサの指環

誕生日でも記念日でもないありふれた平日の夜
あなたが帰ってシロツメクサの指環をくれてさ
今日も生きてみて良かった
今すぐバスタブに愛を溜めるね
ちょっと、悲しみを脱いで待っていて

ベランダを濡らした昨日の雨
光を反射している
五月病も今朝どこか遠くへ
少しだけ世界が美しい

知らないうちに日も伸びていて明るい6時過ぎ
玄関のドアーの安い鈴がいつもと同じように揺れたら

誕生日でも記念日でもないありふれた平日の夜
あなたが帰ってシロツメクサの指環をくれてさ
今日も生きてみて良かった
今すぐバスタブに愛を溜めるね
ちょっと、悲しみを脱いで待っていて

出来ることならあなたよりも先に生き尽くしたいから
煙草なんてものはもう辞めてさ
わたしとキスをしたらいいのに

誕生日でも記念日でもないありふれた平日の夜

誕生日でも記念日でもないありふれた平日の夜
あなたが帰ってシロツメクサの指環をくれてさ
今日も生きてみて良かった
今すぐバスタブに愛を溜めるね
ちょっと、悲しみを脱いで待っていて

誕生日でも記念日でもないありふれた平日の夜

愛を注ぐ

窓枠の形に日向が落ちて浅くなる眠りの最中
聞こえたあなたの呼吸の音

愛を注ぐ
それだけの為に訪れた一秒を今
その耳に、その脳に、惜しみなく浸して

いつかこの鼓動は止まってしまう
約束は到底役になど立たないから今すぐに果たすことを

愛を注ぐ
それだけの為に削られた生命を今
その腕に、その胸に、抱きしめて満たして

小さな哀しみを重ねることを望んだ
それがただ一つのわたしの幸福論
あなたさえ失わず生きていけるならそれでいい
それだけでいい

この涙を誘ったのも
この涙を留めたのも
愛しいあなた
目の前のあなた
同じように愛を、愛を、

愛を注ぐ
それだけの為に働いた唇を今
その眼に、その瞼に、閉じ込めて眠って

リビルド

消えそうな空が誰かの哲学を
ぬるい風ごと飲み込んでいく

どうしたって
嫌って
抗っていたくて

お前を赦せないから

世界が非を認めて
今更 理不尽な原理を正したって遅いの

傍観者に埋れて舞台上の役者を観ていた
その黒い目が嫌い

美しい花とそれを喰らうものが
同じ水槽で揺れるような感覚

狂いそうな鏡の中

これまでのことを思い出して
生きていなかったこれまでを
壊して大事に箱にしまって
さめざめと泣いてはじまる

世界が非を認めて
今更 理不尽な原理を正したって遅いの

傍観者に埋れて舞台上の役者を観ていた
その黒い目は過去の目